大判例

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名古屋高等裁判所 昭和26年(う)101号 判決

而して右無罪の言渡があつた事実と有罪の言渡のあつた各事実はいずれも併合罪として起訴されたものと認むべきであるから第一審判決が併合罪の一部につき無罪の言渡をなし、之に対し前述の如く検察官の控訴申立がない以上、この無罪の言渡があつた部分は同判決言渡後十四日の法定期間の経過により当然実質的控訴権が消滅し、実質的確定力即ち所謂既判力を生じた訳であるから、非常上告の理由があつて、その手続を履践する場合の外は、斯る既判力を生じた事実と同一性を有する事実につき改めて前の判決と異つた判決を為し得ないことは憲法第三十九条に明定された所謂一事不再理の原則に照して是に明白である、従つて被告人浅香に関する右判決の中同被告人の控訴申立(控訴申立書には部分を明確に限定していないけれども無罪の判決に対し被告人が控訴の申立をする事は全く実益を欠き固より許さるべきではない)により控訴審に移審の効力を生ずるのは単に同判決が有罪と認めた部分に止まり、無罪の判決が確定した分は移審の効力を生ずるに由なく、この部分は控訴審の審判の対象となし得ないことは多く論ずるまでもない。

(中略)

従つて斯る事実につき、右控訴判決が前説明の如き判断の下に無罪の部分を含む第一審判決を破棄し、原審に差戻すと云う措置を採つたのは法律上到底容認されないところであるから斯る違法の控訴判決があつたからと云つて、之が為一旦生じた既判力の効果を左右するが如き法律上の効果を生ずるに由なく、結局右控訴判決のこの部分は何等法律上の根拠に基かず、移審の効力を生ぜず、控訴審の審判の対象と為し得ない事実につき無用の判断を為したに過ぎないものと論断せざるを得ない。従つてこの控訴判決に対しては刑事訴訟法第四百五条に基き訴訟関係人から上告の申立を為し、同判決の違法を是正すべきであつたのに、遺憾ながらその措置も講ぜられていないけれども何れにせよ右控訴判決のこの部分は、実質的には無効(既判力の効果を動かすことが出来ない意味によつて)であつて、斯る判決は裁判所法第四条の規定に拘らず下級審の裁判所を拘束するものではないと解しなければならない。蓋し裁判所法第四条の上級審の裁判所の裁判における判断は、その事件について下級審の裁判所を拘束するとの規定は、適法に上級審に繋属した事件につき上級審が法律上の根拠に基き法令の解釈、事実の認定、刑の量定等に関し下級審の裁判所と見解を異にし、下級審の判断と異つた判断をした場合においてのみその適用があるものと解すべきだからである。若し夫れ控訴審が既に無罪の確定判決を経、移審の効力を生じていない部分につき前記説明の如き判断の下に原判決を破棄して原審に差戻す判決を為した場合においても尚且裁判所法第四条により下級審の裁判所を拘束するものとすれば差戻をうけた事件につき、第一審裁判所は非常上告の手続によらないで無罪の確定判決を経た事件につき有罪の判決をしなければならないと云う法律上到底首肯する事が出来ない不合理な結果を生ずるのである。

(中略)

敍上の如く差戻後の第一審判決は起訴状記載の第一、(一)、(イ)、の各麻薬購入の事実と同一性を有する事実と認め、之を麻薬を所持した事実に訴因罰条の変更を許し、麻薬に関してはこの事実のみを有罪と認定した事が記録上極めて明白であるが、焉ぞ図んこの事実は上来説明の如く、差戻前の第一審判決が無罪の言渡を為し、検察官の控訴申立がなく、為に既に夙く既判力を生じている事実であつて、固より前の控訴審の審判の対象と為し得なかつた事実なのである。従つて差戻後の第一審判決は前記控訴判決にかかわらず、須らくこの点に着眼し、之を前提として適切なる判断を為さなければならないことは上来説明の理由によつて自ら明瞭である。只斯る場合如何なる判決を為すべきかにつき考究するに、この点に関し二説を考えることが出来る。

第一説は公訴棄却の判決を為すべきであるとの考え方である、その論拠とするところは、凡そ起訴状はその事案に関する判決の確定により、その目的を達成しその効力は自然に消滅するものと解すべきである。従つて本件の場合、差戻前の第一審判決が無罪の言渡を為し、その判決が確定した時起訴状のその部分は当然その効力を消滅しているのであるから爾後斯る無効の起訴状に基き差戻後の第一審において検察官が公訴事実の陳述をしたとしても何等法律上公訴提起の効果を生ずる根拠がないから刑事訴訟法第三百三十八条の規定に準じて公訴棄却の判決をすべきであると謂うにある。更に第二説は免訴の判決を為すべきであるとの考え方である。即ち刑事訴訟法第三百三十七条第一号所定の確定判決を経たときとあるのは既に確定判決を経た事実につき、検察官から更に公訴を提起した場合を指称するものと解すべきであるが、本件の場合は、前記起訴状による公訴の提起があり、その訴訟手続の進行中における出来事であつて同条第一号に適切な場合ではないけれども、悉も角形式的には前記控訴判決、及び差戻後の第一審判決があり、而も差戻後の第一審において、検察官は、当初の起訴状及び訴因変更請求書に基き、公訴事実を陳述し、原審裁判所は之に基き、審判しているのであるから、確定判決を経た事実につき再び公訴の提起があつた場合に準じ、免訴の判決を為すべきであるというにある。当裁判所は被告人利益の立場を重んじ右第二説に遵馳し免訴の判決を為すを正当と解する。然るに差戻後の第一審判決はこの点に関する留意を怠り、漫然既判力を生じた事実を有罪と認め、他の調整法違反の罪とを併合罪として処断したのは明かに法律の解釈を誤り、一事不再理の原則を無視し、有罪とすべからざる事実を有罪と認めた違法があり、この違法は判決に影響を及ぼすことは極めて明白であり、調整法違反の罪と併合罪として処断しておるから、結局同被告人に関する差戻後の第一審判決中有罪の分は全部破棄を免れない。

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